た灰を掃除しながら時計を見るともう三時になっていた。部屋の中は綺麗に片づいていて、客を迎えるのに少しの手落ちもなかった。自分の身なりをも調べてみて、ふたたび机の前に坐ろうとした時、ふと母のいい残した言葉が気になった。渡瀬さんの来る時には今までいつでもおりよく母がいたのに今日は留守になるので、それであれだけのことをいいおいたのかと思えた。そう思ってみると、その言葉の一つ一つにはかりそめに聞き流してはいられないものがあるようだった。そういえば渡瀬さんという人は、星野さんや園さん、そのほか農学校にいる書生さんたちとは少し違ったところがある。あの人の前に出るとはじめから自由な気持で何んでもいえそうだけれども。そして困ったことでもあった時、相談をしかけたら、すぐてきぱき始末をつけてくれそうだけれども、その先の先がどう変ってゆくのか、渡瀬さん自身でさえ無頓着《むとんちゃく》でいるようにも見える。他人のことはすぐ見ぬいてしまって、しかもけっして急所を突くようなことはしない代りに、自分のことになると自由すぎるほどのんきなようにも見える。そうかと思うと、どんな些細《ささい》なことでも自分を中心にしなけれ
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