息《いき》をふきこんだ。ぶすぶすと臭い香いを立てて燃える丁子の紅い火だけを残して灯は消えてしまった。煙ったい暗黒の中に丁子だけがかっちりと燃え残っていた。絶望した清逸は憤りを胸に漲《みなぎ》らしながら、それを睨《にら》みつけて坐りつづけていた。
「おい純次起きろ。起きるんだ、おい」
と清逸は弟の蒲団に手をかけてゆすぶった。しばらく何事も知らずにいた純次は気がつくといきなりがばと暗闇の中に跳び起きたらしかった。
「純次」
返事がない。
「おい純次。お前|母屋《おもや》まで行って、ラムプの油をさしてこい」
「ラムプをどうする?」
「このラムプに石油をさしてくるんだ。行ってこい」
清逸は我れ知らず威丈《いた》け高になって、そう厳命した。
「お前、行ってくればいいでねえか」
薄ぼんやりと、しかもしぶとい声で純次がこう答えた。清逸は夜気に触れると咳が出るし、石油のありかもよく知らないから、行ってきてくれと頼むべきだったのだ。しかしそんなことをいうのはまどろしかった。
「ばか、手前は兄のいうことを聞け」
弟は何んとも答えなかった。少しばかりの沈黙が続いた。と思うと純次はいきなり立ち上って
前へ
次へ
全255ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング