な感じが、みるみる胸いっぱいに漲《みなぎ》ってきた。
「君はこのごろはどうなの」
 園がしばらくしてからこういった。園の眼は今度はまさしく人見を見やっていた。人見は不意を衝かれたように思って、ちょっと尻ごみをしていたが、慌て気味に手が襟巻のところに行ったと思うと、今まで少しも出なかった咳が軽く喉許を擽《くすぐ》るのを覚えた。しかし人見はわざとその咳を呑みこんでしまった。
「なあに、僕のはたいしたことはないんだよ」
 まったく医者が見てくれるたびごと、たいしたことはないというのだが、それが何か物足らないのだけれども、この場合やはり医者がいうようにいうのが恰好だと人見は思ったのだ。そして園という男は変にストイックじみた奴だなと思った。
     *    *    *
 紺の上っぱりを着て、古ぼけた手拭で姉さんかぶりをした母が、後ろ向きに店の隅に立って、素麺《そうめん》箱の中をせせりながら、
「またこの寒いにお前どこかに出けるのけえ」
 というのを聞き流しにして清逸は家を出た。
 夕方だった。道を隔てて眼の前にふさがるように切り立った高い崕《がけ》の上に、やや黄味を帯びた青空が寒々と冴《さ
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