もいわせたら、これはこの人が天から授かった徳相《とくそう》だとでもいうのだろう。
研究室はまったく寒い部屋だった。渡瀬は計算に夢中でいる間は少しも気がつかなかったが、これでは新井田氏が不平をこぼしたのもむりがないと思った。火鉢一つでは、こんな天井の高い家ではもう凌《しの》げる時節ではない。それに宵《よい》もだいぶふけたらしかった。おまけに酒の酔いもさめぎわになっていた。
玄関に来て帰りの挨拶をしかけると、新井田氏がきゅうに思いついたように、ちょっと待ってくれといってそそくさと奥にはいっていった。渡瀬はやむを得ずそこに突立って自分の下駄と新井田氏が脱ぎ捨てた履物《はきもの》とを較べなどしていた。その時頭のすぐ上で突然音がした。ちょっと驚いて見上げてみると玄関のつきあたりの少しすすけた白壁に、金縁の大きな丸時計がかかっていて、その金色の針がちょうど九時を指していた。玄関に時計をおくとは変な贅沢《ぜいたく》をしたもんだなあと思いながら、渡瀬はまじまじと大ぎょうな金色に輝くその懸時計を見守って値ぶみをしていた。
間もなく新井田氏が奥さんにつきまとわれるようにして出てきた。渡瀬が夕食の馳走
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