君のなさるようなことを、ここでこうしてぼんやり眺めていたところが、何んの薬にもなりませんから、私はごめん蒙《こうむ》ります。すっかり冷えこんでしまいましたお蔭で……」
「ははん、先生、腹立ちまぎれに明日から俺を抛《ほう》りだそうと考えているな。こりゃこうしちゃいられないぞ」……渡瀬の頭に咄嗟《とっさ》に浮んだのはこれだった。しかし彼は驚きはしなかった。彼にはこの危地から自分を救いだす方策はすぐにでき上っていた。彼は得意先を丸めこもうとする呉服屋のような意気で、ぴょこぴょこと頭を下げた。そのくせその言葉はずうずうしいまでに磊落《らいらく》だった。
「やあすみませんまったく。こちらに来るまでに計算はこのとおりやっておいて、結果が出るばかりになっていたのだから、すぐできるとたかをくくっていたんですが、……これで計算という奴は曲者ですからなあ。今日はそれじゃ僕は失敬して家でうん[#「うん」に傍点]と考えてみます。作るくらいならあんまり不器用な……」
「そりゃそうですとも、作る以上は完全なものにしたいのは私も同じことじゃありますが、計算までここでやってるんじゃ、私は手持|無沙汰《ぶさた》で、まど
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