暮している。何をいって聞かせたってろくろく分りはしないのだから、俺は札幌の方を優等で卒業したから、これから東京に出て、もっとえらい大学で研《みが》きをかけるんだといい聞せておいた。何しろ英語を三つ四つ話の中にまぜれば、何をいっても偉いことのように聞こえるんだから、じつに簡単で気持がいいよ。たとえばこういう具合だ。
『おとうさまは知るまいが東京には University《ユニヴァーシティ》 という大学があって、象山先生の学問に輪をかけたような偉い学問ができる。そこに行くと俺でも Student《ステューデント》 という名前を貰って、Sociology《ソシオロジイ》 and《アンド》 English《イングリッシュ》 grammar《グラマー》 and《アンド》 Chinese《チャイニイズ》 literature《リタラチャー》 というようなむずかしいものを習うだ。どうだね、もう二三年がところ留守にしてもいいずら』
『げえもねえことを……象山先生より偉くなったらどうする気だ』
俺の方では佐久間象山より偉い人間は出てこようがないとしてあるんだ。けれどもだ、おやじは俺が大の自慢で、長男は俺
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