ということにかけて、園の心は小ゆるぎもしなかった。一種の勇気をもってその五体は波打った。彼の眼に映る大通りの雪景色は、その広さと潔《いさぎよ》さにおいて彼の心に等しかった。夜の闇が逼《せま》り近づいて紫がかった雪の平面を、彼は親しみの吐息をもって果て遠く眺めやった。
 さっきのとおりに小母さんもおぬいさんも家にいて、台所で夕食の支度をしているところだった。二人はさっき帰ったばかりの園が、不意にまた訪ずれてきたのを驚きながらも喜ぶように、もつれ合って入口に走りでた。毎日同じようなことを繰り返しながら、淋しく暮している母子二人にとっては、これほどいささかな不意なことも、これほどに気を引き立たせるのだろう。少なくとも園がこの家で邪魔物あつかいにされていないのを知るのは彼にとっても限りなく快いことだった。
 おぬいさんは慌て気味に襷《たすき》とエプロンとを外ずしながら、茶の間に行ってラムプの芯《しん》をねじ上げた。その釣りラムプの下には彼の見慣れたチャブ台の上に、小さずくめの食器がつつましく準備されていた。小母さんを見、おぬいさんを見、その可憐なチャブ台の上の様を見ると、園の心は思いもかけず小さく激しく沸き立ちはじめた。
「その鞄は」
 と小母さんは怪しむように尋ねた。
「今お話します」
 園は小母さんの怪訝《けげん》そうな顔に曖昧《あいまい》な答えをしながら、美しい楕円の感じのする茶の間に通って、いつもの所に、……柱を背にして倚《よ》りかかることのできる……胸の動悸《どうき》を気にしながら坐った。
「どうなすったのです……明りのせいかしらん、……お顔の色がお悪いようですが……」
 火鉢のわきに小母さんが、園からずっと離れて茶箪笥《ちゃだんす》の前におぬいさんが座をしめた時には、園の前にはチャブ台は片づけられていた。園は自分の顔が醜《みにく》いほど充血しているだろうとばかり信じていたのに、そう小母さんにいわれてみると、手の先までが寒さのためばかりでなく冷えきっているのを感じた。自分の気持をそのまま先方に移すことができるだろうか、そういう不安がかすかに動いた。彼はその場になって、かすかにでもそう感ぜねばならぬのが苦しかった。それゆえ彼は已むを得ずますます口少なになった。何もかも一度に二人に言いきってしまった時に感じるだろう心のすがすがしさと、それを曲って取られはしないかという
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