送ろう」
「酔不成歓惨欲別か……柿江、貴様ははじめから黙ったまま爪ばかり噛んでいやがるな……皆な聞け、あいつは偽善者だ。あいつは俺といっしょに女郎を買ったんだ」
「おいおいガンベ、酔うのはいいが恥を知れ」
それはすべてを冗談にしてしまおうとするような調子だった。
「恥を知れ? はははは、うまいことを言いやがるな。……」
まだいい募りたかったが、その時渡瀬は酔のさめてくるのを感じた。それは何よりも心淋しかった。寝こんでしまって自然に酔いがさめるのでなければ、酔ざめの淋しさはとても渡瀬には我慢ができなかった。彼は立ち上った。
「便所か」
と人見も同時に立ってきた。廊下に出るときゅうに刺すような寒気が襲ってきた。婆やまでが心配そうにして介抱しに来た。渡瀬は用を足しながら、
「婆や、小便は涙の一種類で、水と同《おん》なじもんだ……じゃなかったかな……とにかくそういうことを知ってるか、はははは」
といってしいて笑ってみたが、自分ながら少しもおかしくはなかった。何しろ酒にありつかなければもういられなくなった。
彼は人見と園とにつき添われて、白官舎から、真白に雪の降りつもった往来へとよろけでた。
* * *
どうしても気の許せないようなところのある男だった。それが、ともかく表向は信じきっているように見える父の前に書類をひろげてまたしゃべりだした。(父は実際はその言葉を少しも信じてはいないのに、おせいの前をつくろって信じているらしくみせているのではないか。つまり父までがぐる[#「ぐる」に傍点]になっているのではないかとさえ疑った)
「こうした依頼を受けているんです。土地としては立派なもんだし、このとおり七十三町歩がちょっと切れているだけだから、なかなかたいしたものだが、金高が少し嵩《かさ》むので、勧業が融通をつけるかどうかと思っているんですがね……もっともこのほかにもあの人の財産は偉いもので、十勝《とかち》の方の牧場には、あれで牛馬あわせて五十頭からいるし、自分の住居というのがこれまたなかなかなことでさあ。このほか有価証券《ゆうかしょうけん》、預金の類をひっくるめると、十五万はたしかなところですから、銀行の方でも信用をしてくれるとは思っているんですが」
そういう間にも、その男は金縁《きんぶち》の眼鏡の奥から、おせいの様子をちらりちらりと探るように
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