の神様、私どもをお助けください」
 と言って天の一方を見上げながらおかあさんがいのりますと、そこに蝶《ちょう》のような羽ばたきをさせながら、小さな雲雀《ひばり》がおりていました。そしてそれが歌をうたいますと、雄羊は例の灰色の土塊の中にすがたをかくしてしまいました。
 そこで今度は第三の門に来ましたが、ここはじゅくじゅくの湿地《しっち》ですから、うっかりすると足が滅入《めい》りこみます。所々の草むらは綿の木の白い花でかざった壁のようにも思われます。なにしろどろの中に落ちこまないようにまっすぐに歩かなければなりませんでした。おまけにここには、子どもたちがうっかりすると取ってしかられる、毒のある黒木いちごがはえていました。むすめは情けなさそうにそれを見ました。まだこの子は毒とはなんのことだか知りませんでしたから。
 なお歩いて行きますと、木の間から何か白いものがやって来るのに気がつきました。見るうちに太陽はかくれて、白霧《はくむ》が四囲《あたり》を取りまきました。いかにも気味がよくありません。
 するうちにその霧《きり》の中から、ねじ曲がった二本の角《つの》のある頭が出て、それがほえると、続
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