雪、北海道ですら、滅多《めった》にはないひどい吹雪の日だった。市街を離れた川沿いの一つ家はけし飛ぶ程揺れ動いて、窓硝子《ガラス》に吹きつけられた粉雪は、さらぬだに綿雲に閉じられた陽の光を二重に遮《さえぎ》って、夜の暗さがいつまでも部屋から退《ど》かなかった。電燈の消えた薄暗い中で、白いものに包まれたお前たちの母上は、夢心地に呻《うめ》き苦しんだ。私は一人の学生と一人の女中とに手伝われながら、火を起したり、湯を沸かしたり、使を走らせたりした。産婆が雪で真白になってころげこんで来た時は、家中のものが思わずほっ[#「ほっ」に傍点]と気息《いき》をついて安堵《あんど》したが、昼になっても昼過ぎになっても出産の模様が見えないで、産婆や看護婦の顔に、私だけに見える気遣《きづか》いの色が見え出すと、私は全く慌《あわ》ててしまっていた。書斎に閉じ籠《こも》って結果を待っていられなくなった。私は産室に降りていって、産婦の両手をしっかり[#「しっかり」に傍点]握る役目をした。陣痛が起る度毎《たびごと》に産婆は叱るように産婦を励まして、一分も早く産を終らせようとした。然し暫《しばら》くの苦痛の後に、産婦はす
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