は、誰でも少し考えるならば、そこの生活が、自壊作用をひき起こしつつあることを、感じないものはなかろう。その自壊作用の後に、活力ある生活を将来するものは、もとよりアリストクラシーでもなければ、富豪階級でもありえぬ。これらの階級はブルジョアジー以前に勢力をたくましゅうした過去の所産であって、それが来たるべき生活の上に復帰しようとは、誰しも考えぬところであろう。文芸の上に階級意識がそう顕著に働くものではないという理窟は、概念的には成り立つけれども、実際の歴史的事実を観察するものは、事実として、階級意識がどれほど強く、文芸の上にも影響するかを驚かずにはいられまい。それを事実に意識したものが文芸にたずさわろうとする以上は、いかなる階級に自分が属しているかを厳密に考察せずにはいられなくなるはずだ。
しからば、来たるべき時代においてプロレタリアの中から新しい文化が勃興するだろうと信じている私は、なぜプロレタリアの芸術家として、プロレタリアに訴えるべき作品を産もうとしないのか。できるならば私はそれがしたい。しかしながら、私の生まれかつ育った境遇と、私の素養とは、それをさせないことを十分意識するがゆえ
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