幻想
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)閉《しま》つた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はしたが、

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ざわ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 彼れはある大望を持つてゐた。
 生れてから十三四年の無醒覺な時代を除いては、春秋を迎へ送つてゐる中に、その不思議な心の誘惑は、元來人なつこく出來た彼れを引きずつて、段々思ひもよらぬ孤獨の道に這入りこました。ふと身のまはりを見返へる時、自分ながら驚いたり、懼れたりするやうな事が起つてゐるのを發見した。今のこの生活――この生活一つが彼れの生くべき唯一の生活であると思ふと、大望に引きまはされて、移り變つて行く己れ自身を危ぶんで見ないではゐられないやうな事もあつた。根も葉もない幻想の翫弄物になつて腐り果てる自分ではないか。生活の不充實から來る倦怠を辛うじて逃げる卑劣な手段として
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