火事とポチ
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)真赤《まっか》な火が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二十|軒《けん》ぐらいも
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 ポチの鳴き声でぼくは目がさめた。
 ねむたくてたまらなかったから、うるさいなとその鳴き声をおこっているまもなく、真赤《まっか》な火が目に映《うつ》ったので、おどろいて両方の目をしっかり開いて見たら、戸《と》だなの中じゅうが火になっているので、二度おどろいて飛び起きた。そうしたらぼくのそばに寝《ね》ているはずのおばあさまが何か黒い布《きれ》のようなもので、夢中《むちゅう》になって戸だなの火をたたいていた。なんだか知れないけれどもぼくはおばあさまの様子《ようす》がこっけいにも見え、おそろしくも見えて、思わずその方に駆《か》けよった。そうしたらおばあさまはだまったままでうるさそうにぼくをはらいのけておいてその布のようなものをめったやたらにふり回した。それがぼくの手にさわったらぐしょぐしょにぬれているのが知れた。
「おばあさま、どうしたの?」
 と聞いてみた。おばあさまは戸だなの中の火の方ばかり見て答
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