にこわしてしまおうじゃないか」
 と一人がほざきます。
「生きてるうちにこの王子は悪い事をしたにちがいない。それだからこそ死んだあとでこのざまになるんだ」とまた一人がさけびます。
「こわせこわせ」
「たたきこわせたたきこわせ」
 という声がやがてあちらからもこちらからも起こって、しまいには一人が石をなげますと一人はかわらをぶつける。とうとう一かたまりのわかい者がなわとはしごを持って来てなわを王子の頸にかけるとみんなで寄ってたかってえいえい引っぱったものですから、さしもに堅固《けんご》な王子の立像も無惨《むざん》な事には礎《いしずえ》をはなれてころび落ちてしまいました。
 ほんとうにかわいそうな御最期《ごさいご》です。
 かくて王子のからだは一か月ほど地の上に横になってありましたが、町の人々は相談してああして置いてもなんの役にもたたないからというのでそれをとかして一つの鐘《かね》を造ってお寺の二階に収める事にしました。
 その次の年あの燕がはるばるナイルから来て王子をたずねまわりましたけれども影《かげ》も形もありませんかった。
 しかし今でもこの町に行く人があれば春でも夏でも秋でも冬でも
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