で出るが早いか倉地さんの所にいらっしゃるようになったんだそうですからそのはずでもありますが、ちっともすれていらっしゃらないでいて、気もおつきにはなるし、しとやかでもあり、……」
 ある晩|双鶴館《そうかくかん》の女将《おかみ》が話に来て四方山《よもやま》のうわさのついでに倉地の妻の様子を語ったその言葉は、はっきり[#「はっきり」に傍点]と葉子の心に焼きついていた。葉子はそれが優《すぐ》れた人であると聞かされれば聞かされるほど妬《ねた》ましさを増すのだった。自分の目の前には大きな障害物がまっ暗に立ちふさがっているのを感じた。嫌悪《けんお》の情にかきむしられて前後の事も考えずに別れてしまったのではあったけれども、仮にも恋らしいものを感じた木部に対して葉子がいだく不思議な情緒、――ふだんは何事もなかったように忘れ果ててはいるものの、思いも寄らないきっかけ[#「きっかけ」に傍点]にふと胸を引き締めて巻き起こって来る不思議な情緒、――一種の絶望的なノスタルジア――それを葉子は倉地にも倉地の妻にも寄せて考えてみる事のできる不幸を持っていた。また自分の生んだ子供に対する執着。それを男も女も同じ程度に
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