#「あいびき」に傍点]のあとの支払いにも、葉子は倉地からそのポケットブックを受け取って、ぜいたくな支払いを心持ちよくしたのだった。そしてそんな記憶はもう二度とは繰り返せそうもなく、なんとなく葉子には思えた。そんな事をさせてなるものかと思いながらも、葉子の心は妙に弱くなっていた。
 「また足らなくなったらいつでもいってよこすがいいから……おれのほうの仕事はどうもおもしろくなくなって来《き》おった。正井のやつ何か容易ならぬ悪戯《わるさ》をしおった様子もあるし、油断がならん。たびたびおれがここに来るのも考え物だて」
 紙幣を渡しながらこういって倉地は応接室を出た。かなりぬれているらしい靴《くつ》をはいて、雨水で重そうになった洋傘《こうもり》をばさ[#「ばさ」に傍点]ばさいわせながら開いて、倉地は軽い挨拶《あいさつ》を残したまま夕闇《ゆうやみ》の中に消えて行こうとした。間を置いて道わきにともされた電灯の灯《ひ》が、ぬれた青葉をすべり落ちてぬかるみの中に燐《りん》のような光を漂わしていた。その中をだんだん南門のほうに遠ざかって行く倉地を見送っていると葉子はとてもそのままそこに居残ってはいられなく
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