のいる事なども忘れて、急ぎ足でそのほうに走り近づいた。
 「そらもう帰っていらっしゃいましたよ」
 といいながら顔を引っ込めた看護婦に続いて、飛び込むように病室にはいって見ると、貞世は乱暴にも寝台の上に起き上がって、膝《ひざ》小僧もあらわになるほど取り乱した姿で、手を顔にあてたままおいおいと泣いていた。葉子は驚いて寝台に近寄った。
 「なんというあなたは聞きわけのない……貞《さあ》ちゃんその病気で、あなた、寝台から起き上がったりするといつまでもなおりはしませんよ。あなたの好きな倉地のおじさんと岡さんがお見舞いに来てくださったのですよ。はっきり[#「はっきり」に傍点]わかりますか、そら、そこを御覧、横になってから」
 そう言い言い葉子はいかにも愛情に満ちた器用な手つきで軽く貞世をかかえて床の上に臥《ね》かしつけた。貞世の顔は今まで盛んな運動でもしていたように美しく活々《いきいき》と紅味《あかみ》がさして、ふさふさした髪の毛は少しもつれて汗ばんで額ぎわに粘りついていた。それは病気を思わせるよりも過剰の健康とでもいうべきものを思わせた。ただその両眼と口びるだけは明らかに尋常でなかった。すっか
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