ゃんと知っていながら、葉子はだれもいないもののような心持ちで振る舞っていたのを思うと、自分ながらこのごろは心が狂っているのではないかとさえ疑った。看護婦は倉地と葉子との対話ぶりで、この美しい婦人の素性《すじょう》をのみ込んだというような顔をしていた。岡はさすがにつつましやかに心痛の色を顔に現わして椅子《いす》の背に手をかけたまま立っていた。
 「あゝ、岡さんあなたもわざわざお見舞いくださってありがとうございました」
 葉子は少し挨拶《あいさつ》の機会をおくらしたと思いながらもやさしくこういった。岡は頬《ほお》を紅《あか》らめたまま黙ってうなずいた。
 「ちょうど今見えたもんだで御一緒したが、岡さんはここでお帰りを願ったがいいと思うが……(そういって倉地は岡のほうを見た)何しろ病気が病気ですから……」
 「わたし、貞世さんにぜひお会いしたいと思いますからどうかお許しください」
 岡は思い入ったようにこういって、ちょうどそこに看護婦が持って来た二枚の白い上《うわ》っ張《ぱ》りのうち少し古く見える一枚を取って倉地よりも先に着始めた。葉子は岡を見るともう一つのたくらみ[#「たくらみ」に傍点]を
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