うに飛んで過ぎた。死のほうへ貞世を連れて行く時間はただ矢のように飛んで過ぎると思えた。
 この奇怪な心の葛藤《かっとう》に加えて、葉子の健康はこの十日ほどの激しい興奮と活動とでみじめにもそこない傷つけられているらしかった。緊張の極点にいるような今の葉子にはさほどと思われないようにもあったが、貞世が死ぬかなおるかして一息つく時が来たら、どうして肉体をささえる事ができようかと危ぶまないではいられない予感がきびしく葉子を襲う瞬間は幾度もあった。
 そうした苦しみの最中に珍しく倉地が尋ねて来たのだった。ちょうど何もかも忘れて貞世の事ばかり気にしていた葉子は、この案内を聞くと、まるで生まれかわったようにその心は倉地でいっぱいになってしまった。
 病室の中から叫びに叫ぶ貞世の声が廊下まで響いて聞こえたけれども、葉子はそれには頓着《とんじゃく》していられないほどむきになって看護婦のあとを追った。歩きながら衣紋《えもん》を整えて、例の左手をあげて鬢《びん》の毛を器用にかき上げながら、応接室の所まで来ると、そこはさすがにいくぶんか明るくなっていて、開き戸のそばのガラス窓の向こうに頑丈《がんじょう》な倉地
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