出たように見えた。何をいうか、またいつものようなありきたりの道徳論を振り回すと思いながら、一種の軽侮をもって黙って聞いていた葉子は、この一言で、いわば古藤を壁ぎわに思い存分押し付けていた倉地が手もなくはじき返されたのを見た。言葉の上や仕打ちの上やでいかに高圧的に出てみても、どうする事もできないような真実さが古藤からあふれ出ていた。それに歯向かうには真実で歯向かうほかはない。倉地はそれを持ち合わしているかどうか葉子には想像がつかなかった。その場合倉地はしばらく古藤の顔を不思議そうに見やった後、平気な顔をして膳《ぜん》から杯を取り上げて、飲み残して冷えた酒をてれかくし[#「てれかくし」に傍点]のようにあおりつけた。葉子はこの時古藤とこんな調子で向かい合っているのが恐ろしくってならなくなった。古藤の目の前でひょっ[#「ひょっ」に傍点]とすると今まで築いて来た生活がくずれてしまいそうな危惧《きぐ》をさえ感じた。で、そのまま黙って倉地のまねをするようだが、平気を装いつつ煙管《きせる》を取り上げた。その場の仕打ちとしては拙《つたな》いやりかたであるのを歯がゆくは思いながら。
古藤はしばらく言葉を
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