思い出す」そう倉地のいった事がある。こんな写真がいったいこの部屋《へや》なんぞにあってはならないのだが。それはほんとうにならないのだ。倉地はまだこんなものを大事にしている。この女はいつまでも倉地に帰って来ようと待ち構えているのだ。そしてまだこの女は生きているのだ。それが幻なものか。生きているのだ、生きているのだ。……死なれるか、それで死なれるか。何が幻だ、何が虚無だ。このとおりこの女は生きているではないか……危うく……危うく自分は倉地を安堵《あんど》させる所だった。そしてこの女を……このまだ生《しょう》のあるこの女を喜ばせるところだった。
葉子は一刹那《いっせつな》の違いで死の界《さかい》から救い出された人のように、驚喜に近い表情を顔いちめんにみなぎらして裂けるほど目を見張って、写真を持ったまま飛び上がらんばかりに突っ立ったが、急に襲いかかるやるせない嫉妬《しっと》の情と憤怒とにおそろしい形相《ぎょうそう》になって、歯がみをしながら、写真の一端をくわえて、「いゝ……」といいながら、総身《そうしん》の力をこめてまっ二つに裂くと、いきなり寝床の上にどう[#「どう」に傍点]と倒れて、物すご
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