子はふらふらとふだん空想していたその心持ちにきびしく捕えられて前後も知らず家を飛び出した事があった。葉子の心は緊張しきって天気なのやら曇っているのやら、暑いのやら寒いのやらさらに差別がつかなかった。盛んに羽虫《はむし》が飛びかわして往来の邪魔になるのをかすかに意識しながら、家を出てから小半町《こはんちょう》裏坂をおりて行ったが、ふと自分のからだがよごれていて、この三四日湯にはいらない事を思い出すと、死んだあとの醜さを恐れてそのまま家に取って返した。そして妹たちだけがはいったままになっている湯殿《ゆどの》に忍んで行って、さめかけた風呂《ふろ》につかった。妹たちはとうに寝入っていた。手ぬぐい掛けの竹竿《たけざお》にぬれた手ぬぐいが二筋だけかかっているのを見ると、寝入っている二人《ふたり》の妹の事がひしひしと心に逼《せま》るようだった。葉子の決心はしかしそのくらいの事では動かなかった。簡単に身じまいをしてまた家を出た。
 倉地の下宿近くなった時、その下宿から急ぎ足で出て来る背たけの低い丸髷《まるまげ》の女がいた。夜の事ではあり、そのへんは街灯の光も暗いので、葉子にはさだかにそれとわからなかっ
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