てしばらく姿を隠していたが、やがて小さな田舟《たぶね》に乗って竿《さお》をさして現われて来た。その時葉子は木部が釣り道具を持っていないのに気がついた。
「あなた釣り竿《ざお》は」
「釣り竿ですか……釣り竿は水の上に浮いてるでしょう。いまにここまで流れて来るか……来ないか……」
そう応《こた》えて案外|上手《じょうず》に舟を漕《こ》いだ。倉地は行き過ぎただけを忙《いそ》いで取って返して来た。そして三人はあぶなかしく立ったまま舟に乗った。倉地は木部の前も構わずわきの下に手を入れて葉子をかかえた。木部は冷然として竿を取った。三突きほどでたわいなく舟は向こう岸に着いた。倉地がいちはやく岸に飛び上がって、手を延ばして葉子を助けようとした時、木部が葉子に手を貸していたので、葉子はすぐにそれをつかんだ。思いきり力をこめたためか、木部の手が舟を漕《こ》いだためだったか、とにかく二人の手は握り合わされたまま小刻みにはげしく震えた。
「やっ、どうもありがとう」
倉地は葉子の上陸を助けてくれた木部にこう礼をいった。
木部は舟からは上がらなかった。そして鍔広《つばびろ》の帽子を取って、
「それじ
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