ど物をいわなかった愛子は、この時も黙ったまま、多恨な柔和な目を大きく見開いて、中座をして行く古藤を美しくたしなめるようにじっ[#「じっ」に傍点]と見返していた、それを葉子の鋭い視覚は見のがさなかった。
 「古藤さん、あなたこれからきっとたびたびいらしってくださいましよ。まだまだ申し上げる事がたくさん残っていますし、妹たちもお待ち申していますから、きっとですことよ」
 そういって葉子も親しみを込めたひとみを送った。古藤はしゃちこ[#「しゃちこ」に傍点]張《ば》った軍隊式の立礼をして、さくさくと砂利《じゃり》の上に靴《くつ》の音を立てながら、夕闇《ゆうやみ》の催した杉森《すぎもり》の下道のほうへと消えて行った。
 見送りに立たなかった倉地が座敷のほうでひとり言のようにだれに向かってともなく「ばか!」というのが聞こえた。

    三五

 葉子と倉地とは竹柴館《たけしばかん》以来たびたび家を明けて小さな恋の冒険を楽しみ合うようになった。そういう時に倉地の家に出入りする外国人や正井などが同伴する事もあった。外国人はおもに米国の人だったが、葉子は倉地がそういう人たちを同座させる意味を知って、そ
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