け届けする金よりもこの金を使う事にむしろ心安さを覚えた。葉子はすぐ思いきった散財をしてみたい誘惑に駆り立てられた。
 ある日当たりのいい日に倉地とさし向かいで酒を飲んでいると苔香園《たいこうえん》のほうから藪《やぶ》うぐいすのなく声が聞こえた。葉子は軽く酒ほてりのした顔をあげて倉地を見やりながら、耳ではうぐいすのなき続けるのを注意した。
 「春が来ますわ」
 「早いもんだな」
 「どこかへ行きましょうか」
 「まだ寒いよ」
 「そうねえ……組合のほうは」
 「うむあれが片づいたら出かけようわい。いいかげんくさ[#「くさ」に傍点]くさしおった」
 そういって倉地はさもめんどうそうに杯の酒を一煽《ひとあお》りにあおりつけた。
 葉子はすぐその仕事がうまく運んでいないのを感づいた。それにしてもあの毎月の多額な金はどこから来るのだろう。そうちらっ[#「ちらっ」に傍点]と思いながら素早《すばや》く話を他にそらした。

    三二

 それは二月初旬のある日の昼ごろだった。からっ[#「からっ」に傍点]と晴れた朝の天気に引きかえて、朝日がしばらく東向きの窓にさす間もなく、空は薄曇りに曇って西風がゴ
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