がら倉地は愛子の顔ほどもあるような大きな手をさし出して、そうしたい誘惑を退けかねるように、紅椿《べにつばき》のような紅《あか》いその口びるに触れてみた。
 その瞬間に葉子はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした。倉地の手が愛子の口びるに触れた時の様子から、葉子は明らかに愛子がまだ目ざめていて、寝たふりをしているのを感づいたと思ったからだ。葉子は大急ぎで倉地に目くばせしてそっとその部屋を出た。

    三〇

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 「僕《ぼく》が毎日――毎日とはいわず毎時間あなたに筆を執らないのは執りたくないから執らないのではありません。僕は一日あなたに書き続けていてもなお飽き足らないのです。それは今の僕の境界《きょうがい》では許されない事です。僕は朝から晩まで機械のごとく働かねばなりませんから。
 あなたが米国を離れてからこの手紙はたぶん七回目の手紙としてあなたに受け取られると思います。しかし僕の手紙はいつまでも暇をぬすんで少しずつ書いているのですから、僕からいうと日に二度も三度もあなたにあてて書いてるわけになるのです。しかしあなたはあの後一回の音信も恵んではくださらない。
 僕は繰
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