》をまたたきもしないで見つめながら、
「えゝ」
と歯切れ悪く答えるのだった。貞世はじれったそうに愛子の肩をゆすりながら、
「でもちっとも[#「ちっとも」に傍点]うれしそうじゃないわ」
と責めるようにいった。
「でもうれしいんですもの」
愛子の答えは冷然としていた。十畳の座敷に持ち込まれた行李《こうり》を明けて、よごれ物などを選《よ》り分けていた葉子はその様子をちらと見たばかりで腹が立った。しかし来たばかりのものをたしなめるでもないと思って虫を殺した。
「なんて静かな所でしょう。塾《じゅく》よりもきっと静かよ。でもこんなに森があっちゃ夜になったらさびしいわねえ。わたしひとりでお便所《はばかり》に行けるかしらん。……愛ねえさん、そら、あすこに木戸があるわ。きっと隣のお庭に行けるのよ。あの庭に行ってもいいのおねえ様。だれのお家《うち》むこうは?……」
貞世は目にはいるものはどれも珍しいというようにひとりでしゃべっては、葉子にとも愛子にともなく質問を連発した。そこが薔薇《ばら》の花園であるのを葉子から聞かされると、貞世は愛子を誘って庭|下駄《げた》をつっかけた。愛子も貞世に続い
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