り聞こえたりするものが、すべて虚構であるのを見いだすさびしさはたとえようがなかった。
愛子は葉子が入院の日以来感心に毎日訪れて貞世の容体を話して行った。もう始めの日のような狼藉《ろうぜき》はしなかったけれども、その顔を見たばかりで、葉子は病気が重《おも》るように思った。ことに貞世の病状が軽くなって行くという報告は激しく葉子を怒《おこ》らした。自分があれほどの愛着をこめて看護してもよくならなかったものが、愛子なんぞの通り一ぺんの世話でなおるはずがない。また愛子はいいかげんな気休めに虚言《うそ》をついているのだ。貞世はもうひょっとすると死んでいるかもしれない。そう思って岡が尋ねて来た時に根掘り葉掘り聞いてみるが、二人《ふたり》の言葉があまりに符合するので、貞世のだんだんよくなって行きつつあるのを疑う余地はなかった。葉子には運命が狂い出したようにしか思われなかった。愛情というものなしに病気がなおせるなら、人の生命は機械でも造り上げる事ができるわけだ。そんなはずはない。それだのに貞世はだんだんよくなって行っている。人ばかりではない、神までが、自分を自然法の他の法則でもてあそぼうとしているのだ。
葉子は歯がみをしながら貞世が死ねかしと祈るような瞬間を持った。
日はたつけれども倉地からはほんとうになんの消息もなかった。病的に感覚の興奮した葉子は、時々肉体的に倉地を慕う衝動に駆り立てられた。葉子の心の目には、倉地の肉体のすべての部分は触れる事ができると思うほど具体的に想像された。葉子は自分で造り出した不思議な迷宮の中にあって、意識のしびれきるような陶酔にひたった。しかしその酔いがさめたあとの苦痛は、精神の疲弊と一緒に働いて、葉子を半死半生の堺《さかい》に打ちのめした。葉子は自分の妄想《もうそう》に嘔吐《おうと》を催しながら、倉地といわずすべての男を呪《のろ》いに呪った。
いよいよ葉子が手術を受けるべき前の日が来た。葉子はそれをさほど恐ろしい事とは思わなかった。子宮後屈症と診断された時、買って帰って読んだ浩澣《こうかん》な医書によって見ても、その手術は割合に簡単なものであるのを知り抜いていたから、その事については割合に安々《やすやす》とした心持ちでいる事ができた。ただ名状し難《がた》い焦躁と悲哀とはどう片づけようもなかった。毎日来ていた愛子の足は二日おきになり三日おきになり
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