勧告した。黙って聞いていた葉子は、すぐ岡の差し入れ口だと邪推して取った。その後ろには愛子がいるに違いない。葉子が付いていたのでは貞世の病気はなおるどころか悪くなるばかりだ(それは葉子もそう思っていた。葉子は貞世を全快させてやりたいのだ。けれどもどうしてもいびらなければいられないのだ。それはよく葉子自身が知っていると思っていた)。それには葉子をなんとかして貞世から離しておくのが第一だ。そんな相談を医長としたものがいないはずがない。ふむ、……うまい事を考えたものだ。その復讐《ふくしゅう》はきっとしてやる。根本的に病気をなおしてからしてやるから見ているがいい。葉子は医長との対話の中に早くもこう決心した。そうして思いのほか手っ取り早く手術を受けようと進んで返答した。
婦人科の室《へや》は伝染病室とはずっと離れた所に近ごろ新築された建て物の中にあった。七月のなかばに葉子はそこに入院する事になったが、その前に岡と古藤とに依頼して、自分の身ぢかにある貴重品から、倉地の下宿に運んである衣類までを処分してもらわなければならなかった。金の出所は全くとだえてしまっていたから。岡がしきりと融通《ゆうずう》しようと申し出たのもすげなく断わった。弟同様の少年から金まで融通してもらうのはどうしても葉子のプライドが承知しなかった。
葉子は特等を選んで日当たりのいい広々とした部屋《へや》にはいった。そこは伝染病室とは比べものにもならないくらい新式の設備の整った居心地《いごこち》のいい所だった。窓の前の庭はまだ掘りくり返したままで赤土の上に草も生《は》えていなかったけれども、広い廊下の冷ややかな空気は涼しく病室に通りぬけた。葉子は六月の末以来始めて寝床の上に安々とからだを横たえた。疲労が回復するまでしばらくの間《あいだ》手術は見合わせるというので葉子は毎日一度ずつ内診をしてもらうだけでする事もなく日を過ごした。
しかし葉子の精神は興奮するばかりだった。一人《ひとり》になって暇になってみると、自分の心身がどれほど破壊されているかが自分ながら恐ろしいくらい感ぜられた。よくこんなありさまで今まで通して来たと驚くばかりだった。寝台の上に臥《ね》てみると二度と起きて歩く勇気もなく、また実際できもしなかった。ただ鈍痛とのみ思っていた痛みは、どっち[#「どっち」に傍点]に臥《ね》返ってみても我慢のできないほど
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