らいの年ごろの時の自分の経験の一々が生き返ってその猜疑心《さいぎしん》をあおり立てるのに自分から苦しまねばならなかった。あの年ごろの時、思いさえすれば自分にはそれほどの事は手もなくしてのける事ができた。そして自分は愛子よりももっと[#「もっと」に傍点]無邪気な、おまけに快活な少女であり得た。寄ってたかって自分をだましにかかるのなら、自分にだってして見せる事がある。
「そんなにお考えならおいでくださるのはお勝手ですが、愛子をあなたにさし上げる事はできないんですからそれは御承知くださいましよ。ちゃん[#「ちゃん」に傍点]と申し上げておかないとあとになっていさくさ[#「いさくさ」に傍点]が起こるのはいやですから……愛さんお前も聞いているだろうね」
そういって葉子は畳の上で貞世の胸にあてる湿布《しっぷ》を縫っている愛子のほうにも振り向いた。うなだれた愛子は顔も上げず返事もしなかったから、どんな様子を顔に見せたかを知る由はなかったが、岡は羞恥《しゅうち》のために葉子を見かえる事もできないくらいになっていた。それはしかし岡が葉子のあまりといえば露骨《ろこつ》な言葉を恥じたのか、自分の心持ちをあばかれたのを恥じたのか葉子の迷いやすくなった心にはしっかり[#「しっかり」に傍点]と見窮められなかった。
これにつけかれにつけもどかしい事ばかりだった。葉子は自分の目で二人《ふたり》を看視して同時に倉地を間接に看視するよりほかはないと思った。こんな事を思うすぐそばから葉子は倉地の細君《さいくん》の事も思った。今ごろは彼らはのう[#「のう」に傍点]のうとして邪魔者がいなくなったのを喜びながら一つ家に住んでいないとも限らないのだ。それとも倉地の事だ、第二第三の葉子が葉子の不幸をいい事にして倉地のそばに現われているのかもしれない。……しかし今の場合倉地の行くえを尋ねあてる事はちょっとむずかしい。
それからというもの葉子の心は一秒の間も休まらなかった。もちろん今まででも葉子は人一倍心の働く女だったけれども、そのころのような激しさはかつてなかった。しかもそれがいつも表から裏を行く働きかただった。それは自分ながら全く地獄《じごく》の苛責《かしゃく》だった。
そのころから葉子はしばしば自殺という事を深く考えるようになった。それは自分でも恐ろしいほどだった。肉体の生命を絶《た》つ事のできるような
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