の顔が静かに現われた。葉子の目は知らず知らずそのどこまでも従順らしく伏し目になった愛子の面《おもて》に激しく注がれて、そこに書かれたすべてを一時に読み取ろうとした。小羊のようにまつ毛の長いやさしい愛子の目はしかし不思議にも葉子の鋭い眼光にさえ何物をも見せようとはしなかった。葉子はすぐいらいらして、何事もあばかないではおくものかと心の中で自分自身に誓言《せいごん》を立てながら、
「倉地さんは」
と突然真正面から愛子にこう尋ねた。愛子は多恨な目をはじめてまとも[#「まとも」に傍点]に葉子のほうに向けて、貞世のほうにそれをそらしながら、また葉子をぬすみ見るようにした。そして倉地さんがどうしたというのか意味が読み取れないというふうを見せながら返事をしなかった。生意気《なまいき》をしてみるがいい……葉子はいらだっていた。
「おじさんも一緒にいらしったかいというんだよ」
「いゝえ」
愛子は無愛想《ぶあいそ》なほど無表情に一言《ひとこと》そう答えた。二人《ふたり》の間にはむずかしい沈黙が続いた。葉子はすわれとさえいってやらなかった。一日一日と美しくなって行くような愛子は小肥《こぶと》りなからだをつつましく整えて静かに立っていた。
そこに岡が小道具を両手に下げて玄関のほうから帰って来た。外套《がいとう》をびっしょり[#「びっしょり」に傍点]雨にぬらしているのから見ても、この真夜中に岡がどれほど働いてくれたかがわかっていた。葉子はしかしそれには一言の挨拶《あいさつ》もせずに、岡が道具を部屋《へや》のすみにおくや否や、
「倉地さんは何かいっていまして?」
と剣《けん》を言葉に持たせながら尋ねた。
「倉地さんはおいでがありませんでした。で婆《ばあ》やに言伝《ことづ》てをしておいて、お入り用の荷物だけ造って持って来ました。これはお返ししておきます」
そういって衣嚢《かくし》の中から例の紙幣の束を取り出して葉子に渡そうとした。
愛子だけならまだしも、岡までがとうとう自分を裏切ってしまった。二人が二人ながら見えすいた虚言《うそ》をよくもああしらじらしくいえたものだ。おおそれた弱虫どもめ。葉子は世の中が手ぐすね引いて自分|一人《ひとり》を敵に回しているように思った。
「へえ、そうですか。どうも御苦労さま。……愛さんお前はそこにそうぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]立ってるた
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