てすぐその目を返して、遠ざかった倉地をこめて遠く海と空との境目にながめ入った。
 「わたしあなたとゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]お話がしてみたいと思いますが……」
 こう葉子はしんみり[#「しんみり」に傍点]ぬすむようにいってみた。木部は少しもそれに心を動かされないように見えた。
 「そう……それもおもしろいかな。……わたしはこれでも時おりはあなたの幸福を祈ったりしていますよ、おかしなもんですね、ハヽヽヽ(葉子がその言葉につけ入って何かいおうとするのを木部は悠々《ゆうゆう》とおっかぶせて)あれが、あすこに見えるのが大島《おおしま》です。ぽつん[#「ぽつん」に傍点]と一つ雲か何かのように見えるでしょう空に浮いて……大島って伊豆《いず》の先の離れ島です、あれがわたしの釣《つ》りをする所から正面に見えるんです。あれでいて、日によって色がさまざまに変わります。どうかすると噴煙がぽーっ[#「ぽーっ」に傍点]と見える事もありますよ」
 また言葉がぽつん[#「ぽつん」に傍点]と切れて沈黙が続いた。下駄《げた》の音のほかに波の音もだんだんと近く聞こえ出した。葉子はただただ胸が切《せつ》なくなるのを覚えた。もう一度どうしてもゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]木部にあいたい気になっていた。
 「木部さん……あなたさぞわたしを恨んでいらっしゃいましょうね。……けれどもわたしあなたにどうしても申し上げておきたい事がありますの。なんとかして一度わたしに会ってくださいません? そのうちに。わたしの番地は……」
 「お会いしましょう『そのうちに』……そのうちにはいい言葉ですね……そのうちに……。話があるからと女にいわれた時には、話を期待しないで抱擁か虚無かを覚悟しろって名言がありますぜ、ハヽヽヽヽ」
 「それはあんまりなおっしゃりかたですわ」
 葉子はきわめて冗談のようにまたきわめてまじめのようにこういってみた。
 「あんまりかあんまりでないか……とにかく名言には相違ありますまい、ハヽヽヽヽ」
 木部はまたうつろに笑ったが、また痛い所にでも触れたように突然笑いやんだ。
 倉地は波打ちぎわ近くまで来ても渡れそうもないので遠くからこっち[#「こっち」に傍点]を振り向いて、むずかしい顔をして立っていた。
 「どれお二人《ふたり》に橋渡しをして上げましょうかな」
 そういって木部は川べの葦《あし》を分け
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