》しきった葉子はかみ捨てるようにかん高《だか》くほゝ[#「ほゝ」に傍点]と笑った。
 「いったいわたしはちょっとした事で好ききらいのできる悪い質《たち》なんですからね。といってわたしはあなたのような生《き》一本でもありませんのよ。
 母の遺言だから木村と夫婦になれ。早く身を堅めて地道《じみち》に暮らさなければ母の名誉をけがす事になる。妹だって裸でお嫁入りもできまいといわれれば、わたし立派《りっぱ》に木村の妻になって御覧にいれます。その代わり木村が少しつらいだけ。
 こんな事をあなたの前でいってはさぞ気を悪くなさるでしょうが、真直《まっすぐ》なあなただと思いますから、わたしもその気で何もかも打ち明けて申してしまいますのよ。わたしの性質や境遇はよく御存じですわね。こんな性質でこんな境遇にいるわたしがこう考えるのにもし間違いがあったら、どうか遠慮なくおっしゃってください。
 あゝいやだった事。義一さん、わたしこんな事はおくびにも出さずに今の今までしっかり胸にしまって我慢していたのですけれども、きょうはどうしたんでしょう、なんだか遠い旅にでも出たようなさびしい気になってしまって……」
 弓弦《
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