「うまくおっしゃるわ」
 と留《とど》めをさしておいて、しばらくしてから思い出したように、
 「あなた田川の奥さんにおあいなさって」
 と尋ねた。木村はまだあわなかったと答えた。葉子は皮肉な表情をして、
 「いまにきっとおあいになってよ。一緒にこの船でいらしったんですもの。そして五十川《いそがわ》のおばさんがわたしの監督をお頼みになったんですもの。一度おあいになったらあなたはきっとわたしなんぞ見向きもなさらなくなりますわ」
 「どうしてです」
 「まあおあいなさってごらんなさいまし」
 「何かあなた批難を受けるような事でもしたんですか」
 「えゝえゝたくさんしましたとも」
 「田川夫人に? あの賢夫人の批難を受けるとは、いったいどんな事をしたんです」
 葉子はさも愛想《あいそ》が尽きたというふうに、
 「あの賢夫人!」
 といいながら高々と笑った。二人《ふたり》の感情の糸はまたももつれてしまった。
 「そんなにあの奥さんにあなたの御信用があるのなら、わたしから申しておくほうが早手回しですわね」
 と葉子は半分皮肉な半分まじめな態度で、横浜出航以来夫人から葉子が受けた暗々裡《あんあん
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