く受け入れられた。そのくせ表面《うわべ》では事務長の存在をすら気が付かないように振る舞った。ことに葉子の心を深く傷つけたのは、事務長の物懶《ものう》げな無関心な態度だった。葉子がどれほど人の心をひきつける事をいった時でも、した時でも、事務長は冷然として見向こうともしなかった事だ。そういう態度に出られると、葉子は、自分の事は棚《たな》に上げておいて、激しく事務長を憎んだ。この憎しみの心が日一日と募って行くのを非常に恐れたけれども、どうしようもなかったのだ。
しかし葉子はとうとうけさの出来事にぶっ突かってしまった。葉子は恐ろしい崕《がけ》のきわからめちゃくちゃに飛び込んでしまった。葉子の目の前で今まで住んでいた世界はがらっ[#「がらっ」に傍点]と変わってしまった。木村がどうした。米国がどうした。養って行かなければならない妹や定子がどうした。今まで葉子を襲い続けていた不安はどうした。人に犯されまいと身構えていたその自尊心はどうした。そんなものは木《こ》っ葉《ぱ》みじんに無くなってしまっていた。倉地を得たらばどんな事でもする。どんな屈辱でも蜜《みつ》と思おう。倉地を自分ひとりに得さえすれば…
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