ん》のように知らず知らず自分のまわりの少女たちにある感情的な教唆を与えていたのだが、自分自身ですらがどうしてこの大事な瀬戸ぎわを乗り抜けるのかは、少しもわからなかった。そのころの葉子は事ごとに自分の境遇が気にくわないでただいらいらしていた。その結果はただ思うままを振る舞って行くよりしかたがなかった。自分はどんな物からもほんとうに訓練されてはいないんだ。そして自分にはどうにでも働く鋭い才能と、女の強味(弱味ともいわばいえ)になるべき優《すぐ》れた肉体と激しい情緒とがあるのだ。そう葉子は知らず知らず自分を見ていた。そこから盲滅法《めくらめっぽう》に動いて行った。ことに時代の不思議な目ざめを経験した葉子に取っては恐ろしい敵は男だった。葉子はそのためになんどつまずいたかしれない。しかし、世の中にはほんとうに葉子を扶《たす》け起こしてくれる人がなかった。「わたしが悪ければ直すだけの事をして見せてごらん」葉子は世の中ノ向いてこういい放ってやりたかった。女を全く奴隷《どれい》の境界《きょうがい》に沈め果てた男はもう昔のアダムのように正直ではないんだ。女がじっと[#「じっと」に傍点]している間は慇懃《
前へ
次へ
全339ページ中228ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング