のそこにいるのすら忘れさすくらいだった。葉子はいきなり寝床の上に丸まって倒れた。そしてうつぶしになったまま痙攣的《けいれんてき》に激しく泣き出した。倉地がその泣き声にちょっとためらって立ったまま見ている間に、葉子は心の中で叫びに叫んだ。
 「殺すなら殺すがいい。殺されたっていい。殺されたって憎みつづけてやるからいい。わたしは勝った。なんといっても勝った。こんなに悲しいのをなぜ早く殺してはくれないのだ。この哀《かな》しみにいつまでもひたっていたい。早く死んでしまいたい。……」

    一六

 葉子はほんとうに死の間をさまよい歩いたような不思議な、混乱した感情の狂いに泥酔《でいすい》して、事務長の部屋《へや》から足もとも定まらずに自分の船室に戻《もど》って来たが、精も根も尽き果ててそのままソファの上にぶっ倒れた。目のまわりに薄黒い暈《かさ》のできたその顔は鈍い鉛色をして、瞳孔《どうこう》は光に対して調節の力を失っていた。軽く開いたままの口びるからもれる歯並みまでが、光なく、ただ白く見やられて、死を連想させるような醜い美しさが耳の付け根までみなぎっていた。雪解時《ゆきげどき》の泉のように
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