っしゃってね、あの晩」
「えゝいいました。……これで切ってもいいでしょう」
「あらそんなものでもったいない……もっと低いものはおありなさらない?……シカゴではシカゴ大学にいらっしゃるの?」
「これでいいでしょうか……よくわからないんです」
「よくわからないって、そりゃおかしゅうござんすわね、そんな事お決めなさらずに米国《あっち》にいらっしゃるって」
「僕は……」
「これでいただきますよ……僕は……何」
「僕はねえ」
「えゝ」
葉子はトランプをいじるのをやめて顔を上げた。岡は懺悔《ざんげ》でもする人のように、面《おもて》を伏せて紅《あか》くなりながら札をいじくっていた。
「僕のほんとうに行く所はボストンだったのです。そこに僕の家で学資をやってる書生がいて僕の監督をしてくれる事になっていたんですけれど……」
葉子は珍しい事を聞くように岡に目をすえた。岡はますますいい憎そうに、
「あなたにおあい申してから僕もシカゴに行きたくなってしまったんです」
とだんだん語尾を消してしまった。なんという可憐《かれん》さ……葉子はさらに岡にすり寄った。岡は真剣になって顔まで青ざめて
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