らにすり寄った。
「いゝえいゝえ泣いてらっしゃいましたわ」
岡は途方に暮れたように目の下の海をながめていたが、のがれる術《すべ》のないのを覚《さと》って、大っぴらにハンケチをズボンのポケットから出して目をぬぐった。そして少し恨むような目つきをして、始めてまとも[#「まとも」に傍点]に葉子を見た。口びるまでが苺《いちご》のように紅《あか》くなっていた。青白い皮膚に嵌《は》め込まれたその紅《あか》さを、色彩に敏感な葉子は見のがす事ができなかった。岡は何かしら非常に興奮していた。その興奮してぶるぶる震えるしなやかな手を葉子は手欄《てすり》ごとじっ[#「じっ」に傍点]と押えた。
「さ、これでおふき遊ばせ」
葉子の袂《たもと》からは美しい香《かお》りのこもった小さなリンネルのハンケチが取り出された。
「持ってるんですから」
岡は恐縮したように自分のハンケチを顧みた。
「何をお泣きになって……まあわたしったらよけいな事まで伺って」
「何いいんです……ただ海を見たらなんとなく涙ぐんでしまったんです。からだが弱いもんですからくだらない事にまで感傷的になって困ります。……なんでもない……
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