らしながら早二三|間《げん》のかなたに遠ざかっていた。
 鋭敏な馬の皮膚のようにだちだちと震える青年の肩におぶいかかりながら、葉子は黒い大きな事務長の後ろ姿を仇《あだ》かたきでもあるかのように鋭く見つめてそろそろと歩いた。西洋酒の芳醇《ほうじゅん》な甘い酒の香が、まだ酔いからさめきらない事務長の身のまわりを毒々しい靄《もや》となって取り巻いていた。放縦という事務長の心《しん》の臓は、今不用心に開かれている。あの無頓着《むとんじゃく》そうな肩のゆすりの陰にすさまじい desire の火が激しく燃えているはずである。葉子は禁断の木の実を始めてくいかいだ原人のような渇欲をわれにもなくあおりたてて、事務長の心の裏をひっくり返して縫い目を見窮めようとばかりしていた。おまけに青年の肩に置いた葉子の手は、華車《きゃしゃ》とはいいながら、男性的な強い弾力を持つ筋肉の震えをまざまざと感ずるので、これらの二人《ふたり》の男が与える奇怪な刺激はほしいままにからまりあって、恐ろしい心を葉子に起こさせた。木村……何をうるさい、よけいな事はいわずと黙って見ているがいい。心の中をひらめき過ぎる断片的な影を葉子は枯れ
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