めてやりたい心になった。葉子はそうした気分に促されて時々事務長のほうにひきつけられるように視線を送ったが、そのたびごとに葉子のひとみはもろくも手きびしく追い退けられた。
 こうして妙な気分が食卓の上に織りなされながらやがて食事は終わった。一同が座を立つ時、物慣らされた物腰で、椅子《いす》を引いてくれた田川|博士《はかせ》にやさしく微笑を見せて礼をしながらも、葉子はやはり事務長の挙動を仔細《しさい》に見る事に半ば気を奪われていた。
 「少し甲板に出てごらんになりましな。寒くとも気分は晴れ晴れしますから。わたしもちょと部屋《へや》に帰ってショールを取って出て見ます」
 こう葉子にいって田川夫人は良人《おっと》と共に自分の部屋のほうに去って行った。
 葉子も部屋に帰って見たが、今まで閉じこもってばかりいるとさほどにも思わなかったけれども、食堂ほどの広さの所からでもそこに来て見ると、息気《いき》づまりがしそうに狭苦しかった。で、葉子は長椅子の下から、木村の父が使い慣れた古トランク――その上に古藤が油絵の具でY・Kと書いてくれた古トランクを引き出して、その中から黒い駝鳥《だちょう》の羽のボアを取
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