ほど、葉子は一生が暗くなりまさるように思った。こうして死ぬために生まれて来たのではないはずだ。そう葉子はくさ[#「くさ」に傍点]くさしながら思い始めた。その心持ちがまた木部に響いた。木部はだんだん監視の目をもって葉子の一挙一動を注意するようになって来た。同棲《どうせい》してから半か月もたたないうちに、木部はややもすると高圧的に葉子の自由を束縛するような態度を取るようになった。木部の愛情は骨にしみるほど知り抜きながら、鈍っていたt子の批判力はまた磨《みが》きをかけられた。その鋭くなった批判力で見ると、自分と似よった姿なり性格なりを木部に見いだすという事は、自然が巧妙な皮肉をやっているようなものだった。自分もあんな事を想《おも》い、あんな事をいうのかと思うと、葉子の自尊心は思う存分に傷つけられた。
ほかの原因もある。しかしこれだけで充分だった。二人《ふたり》が一緒になってから二か月目に、葉子は突然|失踪《しっそう》して、父の親友で、いわゆる物事のよくわかる高山《たかやま》という医者の病室に閉じこもらしてもらって、三日《みっか》ばかりは食う物も食わずに、浅ましくも男のために目のくらんだ自分
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