ついてなんにも知りません。しかし少しでもあなたを知っただけの心持ちからいうと、女の人というものは僕に取っては不思議な謎《なぞ》です。あなたはどこまで行ったら行きづまると思っているんです。あなたはすでに木村君で行きづまっている人なんだと僕には思われるのです。結婚を承諾した以上はその良人《おっと》に行きづまるのが女の人の当然な道ではないでしょうか。木村君で行きづまってください。木村君にあなたを全部与えてください。木村君の親友としてこれが僕の願いです。 
 全体同じ年齢でありながら、あなたからは僕などは子供に見えるのでしょうから、僕のいう事などは頓着《とんじゃく》なさらないかと思いますが、子供にも一つの直覚はあります。そして子供はきっぱり[#「きっぱり」に傍点]した物の姿が見たいのです。あなたが木村君の妻になると約束した以上は、僕のいう事にも権威があるはずだと思います。
 僕はそうはいいながら一面にはあなたがうらやましいようにも、憎いようにも、かわいそうなようにも思います。あなたのなさる事が僕の理性を裏切って奇怪な同情を喚《よ》び起こすようにも思います。僕は心の底に起こるこんな働きをもしいて
前へ 次へ
全339ページ中150ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング