る。ただ僕はクリスチャンである以上、なんとでもして葉子を救い上げる。救われた葉子を想像してみたまえ。僕はその時いちばん理想的な better half を持ちうると信じている」といった事を聞いている。東北人のねんじりむっつり[#「ねんじりむっつり」に傍点]したその気象が、葉子には第一我慢のしきれない嫌悪《けんお》の種だったのだ。
葉子は黙ってみんなのいう事を聞いているうちに、興録の軍略がいちばん実際的だと考えた。そしてなれなれしい調子で興録を見やりながら、
「興録さん、そうおっしゃればわたし仮病《けびょう》じゃないんですの。この間じゅうから診《み》ていただこうかしらと幾度か思ったんですけれども、あんまり大げさらしいんで我慢していたんですが、どういうもんでしょう……少しは船に乗る前からでしたけれども……お腹《なか》のここが妙に時々痛むんですのよ」
というと、寝台に曲がりこんだ男はそれを聞きながらにやりにやり笑い始めた。葉子はちょっとその男をにらむようにして一緒に笑った。
「まあ機《しお》の悪い時にこんな事をいうもんですから、痛い腹まで探られますわね……じゃ興録さん後ほど診《み》ていただけて?」
事務長の相談というのはこんなたわいもない事で済んでしまった。
二人《ふたり》きりになってから、
「ではわたしこれからほんとうの病人になりますからね」
葉子はちょっと倉地の顔をつついて、その口びるに触れた。そしてシヤトルの市街から起こる煤煙《ばいえん》が遠くにぼんやり望まれるようになったので、葉子は自分の部屋に帰った。そして洋風の白い寝衣《ねまき》に着かえて、髪を長い編み下げにして寝床にはいった。戯談《じょうだん》のようにして興録に病気の話をしたものの、葉子は実際かなり長い以前から子宮を害しているらしかった。腰を冷やしたり、感情が激昂《げきこう》したりしたあとでは、きっと収縮するような痛みを下腹部に感じていた。船に乗った当座は、しばらくの間は忘れるようにこの不快な痛みから遠ざかる事ができて、幾年ぶりかで申し所のない健康のよろこびを味わったのだったが、近ごろはまただんだん痛みが激しくなるようになって来ていた。半身が痲痺《まひ》したり、頭が急にぼーっと遠くなる事も珍しくなかった。葉子は寝床にはいってから、軽い疼《いた》みのある所をそっ[#「そっ」に傍点]と平手でさすり
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