かんかん虫
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)彩《いろ》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|連絡《とてつ》もなく

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)下※[#「鍔」の「金」に代えて「月」、第3水準1−90−51]の
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 ドゥニパー湾の水は、照り続く八月の熱で煮え立って、総ての濁った複色の彩《いろ》は影を潜め、モネーの画に見る様な、強烈な単色ばかりが、海と空と船と人とを、めまぐるしい迄にあざやかに染めて、其の総てを真夏の光が、押し包む様に射して居る。丁度昼弁当時で太陽は最頂、物の影が煎りつく様に小さく濃く、それを見てすらぎらぎらと眼が痛む程の暑さであった。
 私は弁当を仕舞ってから、荷船オデッサ丸の舷にぴったりと繋ってある大運搬船《おおだるま》の舷に、一人の仲間と竝んで、海に向って坐って居た。仲間と云おうか親分と云おうか、兎に角私が一週間前此処に来てからの知合いである。彼の名はヤコフ・イリイッチと云って、身体の出来が
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