四五人群がって船の着くのを見守って居た。
 私の好奇心は我慢し切れぬ程高まって、商売道具の掃除をして居られなくなった。一つ見物してやろうと思って立ち上ろうとする途端に、
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様あ見やがれ。
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 と云う鋭い声がかの一群から響いたので、私はもう遣ったのかと宙を飛んで、
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ワハ…………
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 と笑って居る、其の群に近づいて見ると、一同は手に手に重も相な獲物をぶらさげて居た。而して瞬く暇にかんかん虫は総て其の場に馳せ集まって、「何んだ何んだ」とひしめき返して、始めから居たかんかん虫は誰と誰であるか更に判らなくなって居る。ナポレオンが手下の騎兵を使う時でも、斯うまでの早業はむずかしろう。[#「むずかしろう。」はママ]
 私は手欄から下を覗いて居た。
 積荷のない為め、思うさま船脚が浮いたので、上甲板は海面から小山の様に高まって居る。其の甲板にグリゴリー・ペトニコフが足をかけようとした刹那、誰が投げたのか、長方形のクヅ鉄[#「クヅ鉄」はママ]が飛んで行って、其の頭蓋骨を破ったので、迸る血烟と共に、彼は階子を逆落
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