なるかな」が甘めえ。
神符でも利いた様に胸が透いたんで、ぐっすり寝込んで仕舞った。
おい、も少し其方《そっち》い寄んねえ、己れやまるで日向に出ちゃった。
其の翌日嚊とカチヤとを眼の前に置いて、己れや云って聞かしたんだ。「空の空なるかな総て空なり」って事があるだろう、解ったら今日から会計の野郎の妾になれ。イフヒムの方は己れが引き受けた。イフヒムが何うなるもんか、それよりも人間に食い込んで行け。食い込んで思うさま甘めえ御馳走にありつくんだてったんだ。そうだろう、早い話がそうじゃ無えか。
処がお前、カチヤの奴は鼻の先きで笑ってけっからあ。一体がお前此の話ってものは、カチヤが首石《おやいし》になって持出したものなんだ。彼奴と来ちゃ全く二まわりも三まわりも己の上手だ。
お前は見無えか知ら無えが、一と眼見ろ、カチヤって奴はそう行く筈の女なんだ。厚い胸で、大きな腰で、腕ったら斯うだ。
と云いながら彼は、両手の食指と拇指とを繋ぎ合わせて大きな輪を作って見せた。
面相だってお前、己れっちの娘だ。お姫様の様なのは出来る筈は無えが、胆が太てえんだからあの大《でか》[#ルビの「でか」はママ]かい
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