やして、鶴ヶ岡八幡宮に賽《さい》した。一昨年は震災後の復舊造營中だつた社殿がすつかり出來上つてゐたが、眞新しい金殿朱樓はお神樂の獅子のやうで、不愉快なほど俗つぽく、觀たく思つてゐた寶物の古畫も覗かずに石段を下りた。
「こんなところに隱れてゐたんですか。よく見つからなかつたものですね。」
「その當時の銀杏はもつと/\大きかつたのだらう。何しろ、將軍樣のお通りに、警護の武士の眼をかすめるなんて、屹度、銀杏の幹に洞穴でもあつて、隱れてゐたんでせうよ。」
 公曉の隱れ銀杏の前で、一昨年と同じことをユキは訊き、私も同じ答へを繰返しなどして、朱塗りの太鼓橋を渡つて鳥居の前へ出た。
「何處へ行かうかしら?」
 呟いてゐるところへ、大塔宮行の自動車が走つて來たので、行かう/\と元氣な聲で言つてユキを顧みながら、私は急ぎ手を上げた。
 四五分の後、自動車は、大塔宮護良親王を祀る鎌倉宮に案内した。
 清楚な殿宇であつた。私達は、手を洗ひ口を嗽《ゆす》いでから、お賽錢を上げ柏手をうつて拜んだ。それから、他の參拜者の後につゞいて、土牢拜觀の切符を買ひ、社殿の裏手崖下の穴藏の前に立つた。體中の汗が一時に引いたほ
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