けの人数が喰べて行かれるのは、商売のお蔭やないか。商売を粗末にする者は、家に置いとけんさかいな、ちやツちや[#「ちやツちや」に傍点]と出ていとくれ。」と、癇高い声を立てた。男女二人の雇人は、雷に打たれたほどの驚きやうをして、パツと左右に飛んで立ち別れた。
「味醂《みりん》屋へまた二十円貸せちうて来たんやないか……味醂屋にはこの春家出する時三十円借りがあるんやで。能《よ》うそんな厚かましいことが言はれたもんやな。」
 何処までも追つかけるといつた風に、源太郎は、福造の棚卸《たなおろし》をお文の背中から浴びせた。
「味醂屋どこやおまへん。去年家にゐて出前持をしてたあの久吉な、今島の内の丸利にゐますのや。あそこへいて、この春久吉に一円借せと言ひましたさうだツせ。困つて来ると恥も外聞も分りまへんのやなア。」
 また世間話をするやうな、何気ない調子に戻つて、お文は背後《うしろ》を振り返り振り返り、叔父の言葉に合槌を打つた。
「味醂屋や酒屋や松魚節《かつを》屋の、取引先へ無心を言うて来よるのが、一番|強腹《がうはら》やな……何んぼ借して呉れんやうに言うといても、先方《さき》では若《も》し福造が戻つ
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