が細くしてあった。
「もう寝たんですか。」
「寝たのでない、横に立って居るのや。」と弟の浅七が洒落《しゃれ》をいった。
「起きとりゃ蚊が攻めるし、寢るより仕方がないわいの。」と母は蚊帳の中で団扇《うちわ》をバタつかせて大きな欠伸《あくび》をした。
恭三は自分の部屋へ行こうとして、
「手紙か何か来ませんでしたか。」と尋ねた。
「お、来とるぞ。」と恭三の父は鼻のつまった様な声で答えた。彼は今日笹屋の土蔵の棟上《むねあげ》に手伝ったので大分酔って居た。
手紙が来て居ると聞いて恭三は胸を躍《おど》らせた。
「えッ、どれッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」慌てて言って直ぐに又、「何処《どこ》にありますか。」と努めて平気に言い直した。
「お前のとこへ来たのでない。」
「へえい……。」
急に張合が抜けて、恭三はぼんやり広間に立って居た。一寸《ちょっと》間を置いて、
「家《うち》へ来たんですか。」
「おう。」
「何処から?」
「本家《おもや》の八重さのとこからと、清左衛門の弟様《おっさま》の所から。」と弟が引き取って答えた。
「一寸読んで見て呉れ、別に用事はないのやろうけれど。」と父がやさしく言
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